女の子に告白してOKをもらってから一日で振られた話
タイトルの通りなんだが、女の子に告白してOKをもらった翌日に振られたことがある。
そろそろ思い出として昇華できる程度には時も経ったので、当時のことを話してみたい。
(意味ないかもしれないけど、身バレしない程度に一部情報を濁しておく)
私は高校で、ある部活動に入っており彼女もその部活に所属する同期の女の子だった。
相手を意識するようになったのは確か高校2年生の時くらいで、勉強・部活に一生懸命で、どんなことにも手を抜かず、心優しい彼女に惹かれていった。
ただ、「あぁ、俺はこの娘が好きなんだな」と確信してからも、すぐに告白をするということは無く、部活に所属する部員同士という関係は変わらなかった。
というのも、当時の私は(今もだが)恋愛に関して非常に臆病であり、告白をすることに対する警戒心が強く、「もし振られて今後の部活動がやりにくくなったら、自分はいいとしても相手が嫌だろう」という風に考えていた。
なので、好きということを自覚してからも告白をすることは無かった。
今、振り返って考えてみると「なんとも自分勝手な押し付けをしている」「結局は自分が傷つきたくないだけ」と思うこともあるが、高校時代のリアルは得てしてこんなものだろう。
人と人との営みの中で、関係性が変わる瞬間というのはストレスが発生することが多い。後輩だった立場から先輩へ、子どもから親へ、そして友達から恋人へ。
もちろん、関係が変わることによって得られる幸福は十分にあるので、多少のストレスを感じたとしても突っ込むべき時は突っ込んだ方がいいと思っている。
しかし、当時の私はそれを敢行することが出来ず、気持ちを隠したまま一年を過ごした。
高校三年生になり、私は部活動の部長になった。
先輩からの推薦で私を推してもらえたということがとても嬉しく、私自身も部長をやりたいと思っていたため、一層部活動に励んだ。
新たな体制の下で、みんなが最後の大会に向けて練習を続けている中、私は一つの決心をしていた。
「最後の大会が終わったら告白しよう」
最後の大会ということは、それが終われば私達は部活動を引退する。
毎日のように顔を会わせていた環境がなくなり、受験に向けてみんな走り出すシーズンに突入する。
そのため、先述したような「お互い気まずい関係」になったとしても、ダメージがそれほど大きくはならない寸法だった。
よく、漫画やドラマなどで「好きという気持ちを伝えることが大事」というシーンがあるが、私はそれを間違っているとは言わない。相手に対して好意を持つことは、それほど相手が素晴らしい人ということの裏付けでもあるから、相手にとっても喜ばしいことなのかもしれない。
しかし、全ての人間がそれほど強いわけではない。
多くの恋は実らないことの方が多いと思うし、たとえ実ったとしてもすぐに枯れることだってある。そんな状況下で、綺麗な顔をしたドラマ俳優や女優たちが「気持ちを伝えることが大事!」と言っていても、こちらとしては「いや、分かってるんだけどさぁ〜!」となってしまう。
「人間、顔の美醜ではない」と常々思うところではあるが、どうしてもその観点からは逃れることが出来ない。甚だ自分の面に自信の無い私が告白することを決めただけでも、少年から青少年にやっと成長したかのような実感を覚えていたと思う。
そして、その想いを抱えたままいつも通りの、しかし、かけがえのない日々を過ごし、季節はあっという間に夏になった。
最後の大会。夏の陽炎がジワジワと揺れる中、
全員が本気で取り組んできた2年間半の集大成を見せるべく奮闘していた。
スタンドから喉が枯れるくらい応援したし、応援された。こんなに濃密な時間を過ごした高校生活は無い。
「この時間が永遠に続いたらいいのに」なんて、本気で思ってみたりした。
しかし、終わりの時は刻一刻と近づいて行き、遂に全員の試合が終わった。案外、終わりというのは呆気ないものだ。密閉された空間に置かれたロウソクが、消える直前に一瞬燃え上がってすぐに火が消える。何かの終わりというのはこういうものなんだろう。
全員で互いの健闘を讃え合い、指導してくださった恩師に感謝をし、後輩たちに自分たちの想いを託して、私は部活を引退した。
そして、私は告白しようと思った。
部活動の立場という服が脱ぎ捨てられた今、やっと個人対個人として相手と接することが出来るようになった。
何を言うかなんて決めていない。
カッコいい、オシャレな告白なんて出来ない。
けど、自分の気持ちを真摯に伝えようと思った。
帰り道が同じ方面で、最後には2人きりになる瞬間があったので、私は「少し話そうよ」と彼女を誘い、駅のベンチに座った。
部活動のこと、受験のこと、たわいのない話を続けて、なんとなく会話が途切れた時、
「ちょっと真面目な話をしていい?」
と切り出した。
そして、人生で初めての告白をした。
どうやって告白をしたかはもう覚えていない。
ずっと好きだったとか、優しい性格に惹かれたとか、多分そのようなことを取り留めもなく喋ったと思う。
全然スマートな告白ではなかった。
しかし、不器用な男が初めてした一世一代の告白のつもりだった。
すると、彼女は、
「いいよ」
と言ってくれた。
私はその言葉を聞いた時、正直言って理解ができず、めちゃくちゃマヌケな顔で「へ?」と言っていたと思う。
振られることを期待していた訳では無いし、むしろ付き合いたかったのだから「ウオオオ!!」となっても良いはずなのだが、あまりにも突然の出来事に脳がショートしてしまっていた。
「まっ、マジで?」
「うん」
「本当に!?」
「はい」
という会話を交わした後に駅から出て、自分の家に着いたとき、意味もわからず「こういうことか…」と思った。一体どういうことだったんだろう。
翌日、学校の友達に「彼女が出来た」と言い、「やったじゃーーん!イエーーイ!」という雑な歓迎を受けて、みんなでカラオケになだれ込んで適当に歌って大いに楽しんだ。最高の日だった。
しかし、この後に悲劇は起こる。
「週末になったら噂のデートとやらをしてみたいな」と思って、彼女にメールを出しておいたのだが、一向に返信が来ない。
「まぁ、頻繁にメールを見るようなタイプの子でもないし、ちょっとくらい返信が来なくても大丈夫でしょう!」
と思っていたのだが、昼過ぎにメールを出してから、夜の8時くらいになってもメールは返ってこなかった。
私は誰かと付き合ったことがなかったのだけれど、「これはさすがに遅いんじゃないだろうか?」と思った。携帯を持っていってもよい学校だったし、何より「付き合い始めたばかりの時ってこういう感じになるものなのか?」と。
なんとなく1人でソワソワしている夜、一通のメールが入った。
「話したいことがあるから、近くの駅まで来て欲しい」
身体が急に強ばっていくのを肌に感じた。
「まずい・・・」
何かの予感を察知していた。
何故、わざわざ駅まで行かなければいけないのか、メールではダメなのか、私のメールに対しての返信はしてくれないのか、、、
嫌な予感が頭をもたげてきていたが、さすがにそんなことはあるまいと、空虚な希望を胸に抱えて駅に向かった。
駅に着くと、彼女はもう着いていた。
私は、今度デートをする時用に買っていた一張羅を着込んでおり、少しでも自分を良く見せようと必死だった。もう、泣きそうだった。
「どうしたの?急に」
「謝らないといけないことがあるの」
「何が?」
「昨日、◯◯(私)に告白された後、先輩から電話がかかって来て…」
「うん」
「先輩にも告白された」
「うん」
「それで、、、◯◯とは付き合えない」
「・・・・・・」
「本当にごめんね」
「うん」
「こんなことしていいのか分からないけど、ずっと先輩のこと好きだったから」
「・・・」
「本当にごめんなさい」
「わかった」
「うん・・・」
「それじゃ・・・」
駅の改札に消えていく彼女の後ろ姿を見ていた。
彼女は振り返ることは無かった。
私は吐き気を覚え、頭を抑えながら近くの公園に走り込んだ。
そして、すべり台の滑降する部分に「ピタッ」と体を収め、空を見上げた。
「振られた・・・」
不思議と涙は出なかった。
あまりにも衝撃的な振られ方をしたせいか、「悲しい」とか「ふざけんな!」といった感情ではなく、「なんなんだコレは?」という想いが胸の中にあった。
人間は自分に理解が出来ない事象が起きると、自分の身を守るために脳が思考をやめ、何も考えられなくなる。
しかし、脳は思考を止めていても、心はバクバクと動いており、「振られた」「振られた」「一日で」「いや、一日分もない」「振られた」「終わりだ」「なんだこれは」「振られた」「意味がわからない」と、心を拳でブン殴られ続けているのが分かった。
少し落ち着いた時、部活で一番の親友に電話をした。
「オレ、、、なんか振られたみたい」
「えっ」
「なんか、よく分かんないけど、さ、」
「どっどういうこと、とりあえずそっち行くわ」
すべり台に挟まったまま、友達が来るのを待った。その日の夜空は、とても綺麗だった。
親友が最寄りの公園に着いたとき、「良かった!生きてた!」と言われた。
駅近くの公園で電話をしたせいか、踏切の音が電話に入っていたようで、「コイツ振られたショックで死ぬんじゃないか?」と思われていたらしい。なるほど。確かに勘違いされかねない状況だったかもしれない。ただ、別に死のうとは思わなかった。「絶望」よりは「とまどい」の方が大きかったから。
この時の私は荒れた。
親友と共に近所の神社に行き、「なんなんだよクソっ!」と言いながら、柄杓で頭から水を被った。もう、ヤケクソだった。ずーーーっと喚きながら、街を練り歩いた。翌日、学校に行かなければいけないのに。そんなことをしても何も変わらないのに。けど、何かをしていないと、心が死んで行く気がして、気が気じゃなかった。
翌日、「一人でいてもしょうがない」と思い、学校に行った。昨日、彼女が出来たと話した友達に、「振られた」と言った。みんな、「どんな声をかければいいんだろう」という顔で戸惑っていた。昨日は嵐の『One Love』を歌って、100年先の愛を誓っていたはずなのに、1日と持たなかった。悲しすぎるだろ。
あとから聞いた話だが、実は彼女に告白した先輩は直前まで私と電話をしていたのだ。
最後の大会が終わり、私が彼女へ告白をしたあとのタイミングで先輩から私に電話がかかってきた。
「最後の大会お疲れ様」といった内容の話だったが、話もそこそこに、私は告白が成功したことでテンションが上がっていたため、その時に「彼女と付き合うことになった」と口に出してしまった。
それを聞いた先輩は「そうなんだ、やるなー!」的な言葉と共に、冗談っぽい声で「俺も告ってみようかな〜」と笑っていた。私は「いやー!やめてくださいよー!」なんて言っておどけた。しかし、もう私はOKをもらっているのだから「ここから逆転されることは無いはず」なんて甘いことを考えていた。
まさか、本当に実行するなんて、そして、覆されるなんて、思ってもみなかった。
私はこの一件でだいぶとショックを受けた。ハッキリ言って、女性恐怖症的なものに陥っていたと思う。なぜなら、周りの男は私を慰めてくれていたが、彼女の友達は「ずっと好きだったんだからしょうがない」的な感じで、「あの子も傷付いてる」みたいな論調をかましてきたからだ。
申し訳ないが、一番傷ついているのは私の優勝で間違いない。人間関係は生モノだから様々な感情が入り混じって悲しい結末を迎えるのはしょうがない事だ。しかし、この一件だけで言えば私は悪いことは全くしていない。ただ、思いを告げて、喜んで、悲しんだだけじゃないか。
どうしてそんな私が「あの子の気持ちも考えてあげて」なんて言われなければいけなかったのか。それなら私のことも考えてくれよ。
あの辛い体験から、数年が経った。
女性恐怖症は別にそれほどひどくはならなかったので、今は女性の中にも素晴らしい人が沢山いるのは分かっている。人並みに彼女もできたし、また別れたりもした。
今では、あのときの自分の未熟さを認めることも出来ている。きっと、自分にもっと魅力があったら違う道もあったのだろう。
しかし、過ぎた時は戻すことが出来ず、私たちは流れてゆく人生を刹那的に生き抜いていくしかない。人間、「あの時にああしていれば」「もっとこうしていれば」と後悔することの方が多い。そりゃあそうだ。先に後悔することなど出来やしないのだから。それでも、もがいて、苦しんで、希望を捨てずに頑張っていくこと。人の営みはこの人間賛歌によって成り立っているのである。
そして、私のあの時の経験は、私自身を大きく成長させたはずだ。
今なら、強く、そう思える。
そんな彼女が先日、結婚をしたみたいです。
心から「おめでとう」を送りたいと思う。
ご結婚、おめでとうございます!