女子大生を拾った話
「女子大生を拾ったことがある」というと、昨今のみだりに乱れた「授業??ウェーーイwww」といったアホ大学生を想像するかもしれないけど、それとはちょっと違う。
当時、社会人一年目の11月上旬くらいだったと思う。仕事にはまだ全然慣れていなく、就活当時に聞いていた話とはだいぶ違う内情に、一年目ながら「ちっ、、ハズレを引いちまったか…」なんて浅い思想を持ち合わせていた頃だ。
私はその頃、ボイストレーニングに通っていた。なぜ、ボイトレに通っていたのかと言うと、大学生の時に付き合っていた彼女に振られ、「何か生き甲斐を見つけないとマジでヤバい」精神状態に陥っていたことがあり、その時に思い付いたのが「歌が上手くなりたい」という想いだった。この時、私の頭の中ではTHEイナズマ戦隊の『メッセージボトル』という曲が流れており、その歌詞の中に次のような一節がある。
俺歌ってゆくのが夢やってん この言葉はお前の為やってん
辛くともやれば出来ると 信じる力見せたかってん
この涙はお前の為やってん 有線なんかで流れって
偶然に耳に届いて お前の力になりますように
つまり、「別れたとしても、自分はどこか別のところで頑張っているから、いつかそれが偶然にでも耳にでも届いてメッセージを伝えたい」という未練タラタラの情けない理由だった。でも、当時はそういうことをしてでもしていないと、ふらっと仕事とか全部放り投げて、スクランブル交差点で全裸になって「人生もう終わりだよ〜^^」みたいな、そんな心境だった。だから、代替手段としてボイトレに通っていたという背景がある。(ちなみに、歌は未だにド下手くそだ)
そのため、ボイトレに行くことはとても楽しかった。ボイトレに行った日はとても上機嫌になって帰るわけである。基本的にテンションが上がっているため、「よーし!オジサン今日はいつもと違うルートで帰っちゃうぞ〜!」なんて頭の中で考えて、いつもは通らない道に入った時に、その人影は見えた。
時刻は夜の20時30分くらいだっただろうか。
一軒家の玄関前で、裸足で突っ伏している小さな人の影を確認したのだ。最初、「はは~~ん、子どもが親に叱られて外に放り出されちゃったんだな。でも、今どき、なかなか厳しい親だな。こんな寒い時期に外に追い出したりしなくてもいいのに…」と思った。いつもだったら面倒ごとに巻き込まれたくないのでスルーを決めるところだったが、「この寒い時期に放り出されてる子どもが可哀想」「ボイトレ後でテンションが上がっていた」という二つの理由から声をかけることにした。
私の声は低く、聞き取りずらいので、子どもが怖がらないように気持ち高めの声を出しながら近付いた。
「どうしたの〜??親に叱られちゃったの??」
すると、その子がこう答えた。
「あっ、すいません、私、大学生です。酔いつぶれちゃって…」
大学生だったーーーーー!!!!
くそ恥ずかしい。猫なで声みたいなん出した私がバカみたいだ。
しかし、こんな所で裸足で寝てんのが気になったので、
「あっ、そうなんだ。でも、どうしてこんな所で靴も履かずに寝てるの?友だちとかは側にいないの?」
と聞いた。
そうしたら、彼女は急に泣き始めた。
ええーーーーーーー!!!!
なんで泣くんだよ!!何!?なんか変なことした!?
冷静になって客観的に今の状況を整理してみた。20代前半の若い男性。裸足で酔いつぶれて泣いている女子大生。この状況は非常にまずい。私がよからぬ輩で、酔いつぶれた子に声をかけて、あわよくばお持ち帰りしようとしてる男だと思われる可能性がある。でも、ここで立ち去るのはどうにも気まずい。続けて声をかけてみる。
「えっ!どっ、どうして泣いてるの?何かあったの??」
「(泣いている)」
話にならん。文字通り、話にならなかった。
ただ、裸足だし、泣いてるし、こんなに酔い潰れてるし、「もしかしたら、事件に巻き込まれたのかもしれない…」と思うと、その場を離れる訳にも行かなかった。とりあえず、話を聞こうと思って、
「大丈夫?話せる?キツイ??頭痛い??」
と聞くと、彼女は頷くばかりだった。
しょうがない。「もうここは乗りかかった船だ」と思って、「分かった!じゃあ、ちょっと水を買ってくるからそこで待ってて!」と言って、近くのコンビニで水を買ってきて彼女に与えた。ゲロも吐くし、嗚咽混じりで何言ってるのか分かんないし、酔っ払ってるしで、最初はとても話せた状況じゃなかったが、30分くらいもすると、やっと話せるようになってきた。
どうやら、近くの友人宅で飲んでいたところ、酔っ払って裸足のまま出歩いてきてしまったらしい。それを聞いて、「ひとまずは事件とかじゃなくて良かった…」と胸を撫で下ろしたのだが、ここからまた困ってしまった。
彼女がその場から動こうとしないのだ。
「友人に連絡取れる?」と聞いてみても、首を振って連絡を取りたがらない。「なっっ、なんで!?」と思って話を聞いてみると、さっきまで飲んでいた相手の中には、彼女が好きな男性もいたようで、でも、その男性とほかの女性が明らかに仲良くしていて見てるのが辛いから元の場所に戻りたくないみたいなことを言ってきた。
「えぇ…見ず知らずの人にこんなに介抱されてるこの状況でワガママ言うんかーい」と思ったけど、私は酔っ払いは無敵だと知っていた。だから、今は何を言っても無駄だと悟った。私も過去に、渋谷駅で一人で酔い潰れていたところを見ず知らずの人に助けられたことがあったので、「今度自分が酔いつぶれて人を見かけたら、助けるようにしよう」と思っていたため、この女子大生のワガママも受け入れようと思った。なので、酔っ払い特有のブツブツ言ってくる会話にひたすら付き合ってあげて、正気に戻った頃に、もう一度送り返してあげようと考えた。
「うぅ〜う〜(泣)」と泣き続ける女子大生に、「そうだね〜辛いよね〜」とか相槌を打っていた。気が付いたら時刻は女子大生を最初に発見してから1時間は経っていた。
すると、女子大生が「さっ、、、寒い…」と体を震わせ出した。そりゃそうだ。11月の上旬、まだ秋のシーズンとはいえ夜は冷える。裸足だし、着てるのも薄着のセーターだし、体が凍えるのも無理はない。私は考えた。「この状況の女子大生を置いていくのは絶対にダメだ。しかし、暖を取れるものなど無いぞ。どうする…?」
私はその時、薄手のパーカーを着ていた。
頭の中をグルグル駆け巡る。
「このパーカーを見知らぬ女子大生にかけるのは犯罪なのか。寒いって言ってるから正当防衛?いや、防衛ってなんだよ。そもそも、この子は見知らぬ男のパーカーなんてかけられたくないだろ。いや、でも、寒い寒いと言っている子を放置もできん。どうすればいいんだ…会社入りたてなのに…犯罪じゃないよな?大丈夫だよな?」
かなり悩んだ挙句、パーカー掛けてあげた。
この逡巡が、「我ながらめちゃくちゃキモイな」と思うところだが、とにかく掛けた。もういい。目の前で寒いって言ってるから暖かいのを掛けてあげた。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、薄手のパーカー1枚で秋の夜を超えられるほど、気温は甘くなかった。
案の定、
「さっ、、、寒い…」
とまだ寒い様子。
だから、
「分かった!もう、飲むとかじゃなくて、家に帰ろう!お家の人に電話出来る??迎えに来てもらおう!」と言うと、
「家族とケンカしてるからヤダ…」
こぉおおおの野郎!!!!!
まだワガママ言うのかよ!!!!
しかし、「もう乗りかかった船」と決心した手前、ここで去るのも違う。わかった。もうこっちも意地だよ。とことん、付き合ってやろうじゃねーか!と思い立ち、覚悟を決め直した。
さて、当面の問題は暖だ。こんな寒空の下にいたら絶対に風邪をひく。何とかしなければならない。そこで考えたのが、「私の家にこの子を連れて行く」ということ。ここから歩いて7分くらいだし、当然家の中にはエアコンもある。私は「家の中に連れ込んで変なことしてやろう」なんて邪な気持ちはゼロだったから、女子大生の意向を考えるとこれが1番ベストな選択肢っぽかった。
ただ、その時に思った。
「酔いつぶれた挙句、知らない男性に介抱されて、しまいには家の中まで運ばれた」という事実をこの女子大生に与えてしまっていいのだろうか。多分、めちゃくちゃショックなはずだ。冷静になってこの事実を振り返った時に、自分の醜態と、知らない男性に勝手に家に運び込まれたという恐怖は、今後の彼女の人生に絶対に悪影響を及ぼすと思った。上記したように、私の中には「どうにかしてやろう、ゲへへへ」という気持ちは全くなかったが、そんなもの相手からするとどうでもいい。「酔いつぶれて知らない男性の家に連れ込まれた」という事実だけが残るのであって、それは明らかに怖すぎる。だから、家の中に運ぶのはナシにした。代わりに、私がした行動は、
家までダッシュで帰って毛布を取ってきて、道端の女子大生に掛ける
ということ。
自分のしたことながら、今考えてみると「何なんだこいつ?」と思う。これはこれでトラウマ与えんじゃない?
しかも、今考えても意味がわからないことがあって、その場を離れて家に毛布を取りに帰ろうとした時に、ふと私の中で謎の配慮が頭をよぎった。
今、この子はとても孤独だ。酔っ払って頭の中がグチャグチャ、恋愛も上手くいかない、親との関係も悪い、寒い。こんな子を一瞬とはいえ一人で残していってもいいのか。しかし、私が毛布を取りに帰らないとこの子はずっと寒がり続けてしまう。どうしたらいいのか…分かった!
「私が確実に帰ってきて、この子のことはこの場に見捨てていかないよ」という安心を与えてあげればいいんだ!そう考えた私は、
自分の財布をその場に置いて、「すぐ戻る」と言って家までダッシュした。
なんで財布を置いていったのかが、何年か経った今でも未だに謎だ。普通にクレジットカードとか、免許証とか入っていたし、財布を置いていく必要性が全くない。自分としては、「財布を置いたから、これを取りに絶対戻ってくるから」という担保を預けたつもりだったんだけど、この酔っぱらいにそんな配慮必要あったか?私は酔っ払ったりしていなかったはずだが…
財布を置いてダッシュで家に帰って毛布を取ってきた私は、それを女子大生にブワァッと掛けた。やっと寒さが落ち着いたようだ。財布も無事だった。
「やれやれ…」と思って、またしばらく女子大生の話に付き合って、毛布にゲロ吐かれて「このアマ…!!」とか思いながら、また30分くらい時間が経ったところだっただろうか。
道を挟んだ反対の道に若い男性の姿があった。
ヤバい。
スーツの男が酔い潰れている女子大生に道端で毛布をかけてあげてるこの状況。警察だったら確実に事情は伺われるだろう。
「あっ、、こっ、これは、そのちがくて、!」
「•••あれ?〇〇??」
知り合いだったーー!!!
先程言っていた、宅飲みしていた仲間が散歩に出てきていたらしい。というか、「こんなに時間が経ってて心配してなかったんかい!」とちょっとムカついたが、とにかく知り合いらしかった。一応、全然知らない人だったらマズいと思って、女子大生にも確認を取らせたが、同じサークルの仲間で間違いなかった。「あぁ、良かった…やっと友だちが迎えに来てくれた…これでこの子も無事帰れるな」と思ったところで、もう一度今の状況を振り返った。
ヤバいだろ。
目の前で自分のサークルの仲間が知らん男に毛布かけられてる姿
「そんなもん見たらビビるだろ!」
そう思った私は、「一刻も早くこの場を退散しなければならない」と考え、「あっ!サークルの友達ですか!いやー!まいっちゃいましたよ!では!私はこれで!!」と言って、一目散に退散しようとした。その時の掛けていた毛布を回収する私の姿は、リンカーンの企画で始球式をやった松本人志がボケで放ったテープを「グルグルグルグル!」と巻き上げる姿と完全に一致しており、めちゃくちゃアホっぽかったと思う。
迎えに来た相手もなんとなく事情を察したようで「ご迷惑を掛けたんで、連絡先を…」と聞いてきたが、毛布を家から持ってきた自分の行動が急に恥ずかしくなってきて、「いえいえいえ!!とんでもござぁせん!!それでは!私はこれでえぇぇ!!!」と言い放って、高校時代陸上部だった健脚を活かして一目散に家に帰った。あれは現役時代よりも速かったかもしれない。
家に着き、「え?ていうか、これ、なに?????」となったが、とにかくその日は寝た。やたらと疲れた…
翌朝、ゲロが掛かっている毛布を洗濯しているとき、「あれは現実だったんだな」と理解した。
そこで、昨日の自分の行動を振り返ると、「全体的にキモイな」という結論に至り、「そりゃ彼女にも振られるわー」と、なんか逆に晴れやかな気分になった。
ただ、私は当時の自分の行動に何一つ後悔はしていない。強いて言うのであれば、「女子大生のゲロは貴重だったから何かほかに使い道があったかもな」と思うことくらいである。
おい、あの時の女子大生!!
トラウマになっていませんか??あのあと、大丈夫でしたか??
酒には気を付けろよ!!!!!
終わり。