スリーウェイハンドシェイクの恋模様
俺は凄腕ハッカーだ。
どんなに堅牢なページでも、パソコン一つあれば簡単に入り込めると自負している。
ふんっ。俺の手にかかればそんなものザルに過ぎない。フィルターも通さないで入り込めちゃうもんだから、もはやザルではなく枠かもしれないな。(うまいこと言った)
そんな俺だが、つい最近、どうしても破れないセキュリティを見つけてしまった。
それは、俺の家の近所にあるお弁当屋さんで働く女の子の心だ。(チッ。我ながらくさいこと言ってるぜ。)
あの子は3週間くらい前にバイトに入ったらしい。いつもハキハキとしていて、俺が毎回必ず頼むからあげ弁当を満面の笑顔で渡してくれる。
俺はその時の笑顔にやられてしまった。
この子の心をこじ開けたい。俺というウイルスで、この子のハードディスクを満たしてやりたい、そう思い始めた。
俺は週三で弁当屋に通っていたが、彼女はほぼ毎日シフトに入っているみたいだ。
そうと分かると、俺は毎日弁当屋に顔を出すようにした。
「あまりにも頻繁に行くと、少し気持ち悪がられるかもしれない」
そう思って、その子がバイトに入っていない時間にもきちんと行っておいて、「毎日弁当を求めて店に来る」という口実を作っておいた。
これで大丈夫。毎日通っていても全然違和感はないぞ。
さて、毎日通えるようになったと言っても、その子との会話は二言、三言しかない。
「いらっしゃいませ!何になさいますか?」
「じゃあ、からあげ弁当で・・・・・」
「はい!ありがとうございます!」
三つで終わってしまう。スリーウェイハンドシェイクだ。そんなにすぐにセッションが切れるのはゴメンだ。どうにかして、会話を続けてみたい。
でも、俺はパソコンとばかり会話してきたから、こういう時にどうすればいいのか分からない。
聞きたいことは山ほどあるんだ。
「お名前はなんて言うんですか?」
「いつもバイトに入ってるけど、バイト代は何に使うんですか?」
「何歳ですか?」
「パソコンは好きですか?」
────彼氏はいますか?
いつも、喋り出そうとするのに、どうしても一言が出ない。ぎこちない笑顔を浮かべ、おそるおそる弁当を受け取る俺への言葉が、「ありがとうございました!」から「いつも、ありがとうございます!」に変わった時、俺は、もう、この子に心を奪われてしまった。
あぁ、ランサムウェア。
身代金を差し出すから、俺というOSの自由を返しておくれ・・・・・