土手

みんな集合だよ~

Gジャンを流行らせるおじさん

 

「俺がGジャンを流行らせてやるよ!!!」

 

ある日の昼下がり。
電車内でその声は聞こえてきた。

 

「ん?聞き間違いかな?」と思ったのも束の間、再び、

 

「俺が・・・Gジャンを流行らせてやるよ!!!!」

 

という声が。
心を絞り出すようにして発声しているみたいで、悲痛な感情がこちらにも伝わってくる。

 

 

年は52~55くらいだろうか。
黒いキャップ・黒のジーパンを履いており、手にはUNIQLOの袋を抱えている。

 

 

 

そして、革ジャンを着ていた。

 

 

 

あれ???????と思う。

 

 


私が考えるGジャンはこれだ。

ジーパンの素材のような質感で手軽に羽織れる形のジャケットのイメージ。
しかし、そのおじさんを確認してみると明らかにGジャンではなく、革ジャンを着ていた。

 

「ジャン」という共通項はあるものの、Gと革では全く異なる。


ドラゴンボールだって、ZとG(T)では話が全然異なるのだ。

 

 

 

いや、Gジャン着てなくない?

 

 

 

私はもうこのおじさんに夢中になってしまった。

 

このおじさんに一体何があったのか。
どうして急に山手線の車内でGジャン推進大臣に名乗りを上げたのか。


というか、既にGジャンはある程度流行っているし、そもそもあんたGジャン着てないのだが、それはGジャン推進委員会の委員長としてはいかがなものだろうか。納得のいく説明プリーズ。

 

 

電車内ではたまにこういうヤバい奴が現れる。
そういうときは、見て見ぬふりをしてなるべく早く降車駅に着くのを祈るばかりなのだが、今回はかなり気になる。


このおじさんに何があったのか。
私はもう少し耳を欹てることにした。

 

 

「ユニクロのダウンジャケットはうんざりなんだよ!!!」

「ユニクロのクソガキが!!!」

「世間の牝犬がよ!!!!」

 

 

どうやら、かなりUNIQLOに恨みを抱いているようだ。憎しみと言ってもいい。でも、最後のメス犬がよぉ!!の意味は全くわからない。オッサン、あんた何言ってんだ。

 


UNIQLOに感謝こそすれ、恨みを抱く人はあまりいない。ファストファッション界の覇者であり、「UNIQLOだったら被ってもしょうがない」と暗黙の了解さえいただいている大企業だ。

 


かくいう私もこの日記を書いている今、UNIQLOのパンツと靴下を着用している。

 

そんなUNIQLOのダウンジャケットにはうんざりだと言う。しかし、UNIQLOのダウンジャケットにそんなに残念な点があるとは思えない。

 

モデルが格好良いのもあると思うが、かなりきまっている。オシャレだ。
それほどシルエットがもっさりしているわけでもなければ、色合いが変というものでもない。
これらのダウンジャケットが2万以下で買えるのならば、
そんなに悪い選択ではないように思える。

 

 

しかし、おじさんは「うんざりなんだよ!!!」と言った。


この「うんざり」はどういうことなのだろうか。

1.自分は我慢して着ていたが、何らかの不都合で堪忍袋の緒が切れた
2.周りの人がUNIQLOのダウンジャケットばかり着ていて、あまりにもなダイバーシティの無さに辟易した

 

1の線はないと思う。
なぜなら、おじさんは革ジャンを着ていたからだ。電車内で急にキレる理由に結び付かない。

 


やはり、2なのだろうか。
確かに、電車内にはダウンジャケットを着ている人は何名かいたと思う。
その人達に対する警鐘を鳴らしていたのだろうか。だとしたら余計なお世話なのだが、

 


しかし、その代替案がGジャンを流行らせることというのはいかがなものだろうか。
恐らく、Gジャンではダウンジャケットのような存在になれない。


なぜなら、Gジャンは冬のアウターとしては少し弱い。秋くらいに着る程度のぶ厚さでしかないので、冷え込む時期には適していないのだ。


それを流行らせようとするのはやめて欲しい。
みんなが風邪をひいてしまう。インフルエンザが蔓延する。

 

と、ここで新たな考えを出してみたい。

 

3.UNIQLOのダウンジャケットを着用していた女性店員にしつこくダウンジャケットを薦められ、なおかつGジャンのことを馬鹿にされた

 

これはどうだろうか。
この場合だと、「ダウンジャケットはうんざり」「世間の牝犬が」という悪態にも説明は付きそうだ。


どうして、女性店員の着ている服がUNIQLOのダウンジャケットと分かったのかはさておき、どういった流れでGジャンを馬鹿にされたのかもさておくと、おじさんの怒りもむべなるかな。分からんでもない。(さて置く場所にものが溜まりすぎている気もするが)

 

 

しかし、なぜGジャンをバカにされて50中盤のおじさんが急に電車内でファッションリーダーになろうとしたのかは分からない。なんだよ、そのストレスの昇華の仕方は。一周回って尊敬するよ。

 


しかし、事実は小説よりも奇なりだ。



Gジャンをもっと一層盛り立てるオジサンがいたっていいじゃないか。

そのおじさんの思想がUNIQLOのダウンジャケットを憎んでいたっていいじゃないか!

 


今後、Gジャンは流行るべきだ。おじさんのためにも。私のためにも。

電車は降車駅に止まり、私は電車を降りた。

「Gジャン、もう一度タンスから出そうかな」と、そんなことを考えた。

 

 

でも、おじさんが着てたの、革ジャンなんだよなぁ…