パン屋のいい匂いを嗅ぎに行こう
年上「おい、年下。ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
年下「どこですか?」
年上「パン屋の前だよ。匂いを嗅ぎに行こう」
年下「なるほど。パン屋の前っていい匂いしますもんね」
年上「そういうわけで、一緒に行ってほしい」
年下「う〜ん、でも待ってください、年上さん」
年上「なんだ?私はもうパン屋の前のいい匂いへの劣情を抑えきれる自信がないぞ」
年下「少し落ち着いてください。パン屋の前のいい匂いを嗅ぐのはいいと思います。でも、今は夜です」
年上「そうだが?」
年下「年上さん。残念なお知らせがあります」
年上「えっ。残念なお知らせ?知らない人の赤ちゃんに向かって変顔してたらお母さんと目が合った?」
年下「実体験ですか?微笑ましい。違いますよ。夜はパン屋の前ではいい匂いがしないんですよ」
年上「えっ、そうなの?」
年下「そうなんです。基本的にパン屋の前がいい匂いなのは、朝からおやつ時までと相場が決まってるんです」
年上「じゃっ、じゃあ夜はどこにいい匂いを嗅ぎに行けばいいんだ?パン屋の前以外でいい匂いのする場所なんてあるのか?」
年下「う〜ん、難しいですね。夜は基本的に臭いがきつくなる傾向があるんですよ。人は一日働いて汗臭いし、料理屋さんはお酒の臭いがしてくるし」
年上「たっ、たしかに」
年下「というか、どうしてそんなにいい匂いを嗅ぎたがってるんですか?なにか特殊な犬のDNAでも混ぜられたんですか?」
年上「そう」
年下「そうなんですか。確かにここ数日間、一緒に暮らしていて、ヨダレをよく垂らすようになったし、人に向かってやたらと吠えていましたもんね」
年上「そうなんだよ。嗅覚が鋭くなっちゃって。でも、こうなった以上はその優れた嗅覚を満喫したいだろ?だからいい匂いをガンガン嗅いでいきたいんだよ」
年下「事情は分かりました。それでは、出掛けることにしましょうか」
年上「おおっ!いい匂いが嗅げる場所を思い出したのか!?」
年下「はい、きっと、いい匂いがすると思いますよ」
年上「楽しみだなぁ」